禁断の果実としてのチーズバーガー

-竹内雄紀著『悠木まどかは神かも知れない』(新潮文庫)を読んで


長じて幼い頃を振り返れば気になる大人というものはいるもので、それはたいがい世間の常識から一歩のいた位置に立って、善悪の彼岸ともいうべきいろいろな知恵を授けてくれた。

この文庫書き下ろし小説はそんななつかしい存在をみごとに造形して見せることによって、子供の世界の話であると同時に、大人のための大人の物語にもなっている。

中学受験をめざして進学塾に通う小学校5年生の仲良しグループは塾帰りにバーガー店に立ち寄って百円のチーズバーガーを食べる。少年たちはそのお店のなかの一風変わった大人たちとともに「謎」や「難事件」をめぐってどたばたを繰り返す。

こんな大人がいたら小学生には楽しくてしようがないと思える。反面教師であり、じつは本当の先達としての大人。だからここで「チーズバーガー」とは、大人の世界のとば口に立つものが食べなければならない禁断の果実のようである。少なくともその象徴になっている。

未来を担う小学生の恋の行く末に心もときめく。“難事件”に挑む少年たちはけなげである。思わずエールを送りたくなる。それもこれも、ユーモアとだじゃれにもどこか品格を感じさせる文章のおかげである。大人たちも元気になれる小説だった。