日  録 電話噺二題   

 2007年6月3日(日)

 点検のために、朝、ディラーへ。2,3ヵ月前、カバンの小さな鍵を車の中でいじっていて、紛失したことを思い出した。確証はなかったが、まわりをいくら探しても見つからなかったから、おそらくシフトレバーのすき間から中に入り込んだのだろうと推測していた。何か不都合なことはありませんか、と担当者が聞くから、「ここに小さな鍵を落としたみたいなんですよ。探してみてくれませんか」と頼んでみたのである。
 中で待っていると十数分後、担当者がやってきた。真新しい封筒の中からひもの付いた小さな鍵を取り出して、「はい、入っていました」と差し出してくれる。見覚えのある鍵と久々に対面したが、ちょっと照れくさくもあった。「このカギ自体は、どうでもいいんですが、車に悪い影響が出ると困るもので。そうですよね?」
 これは、悪さがばれた少年の弁解みたいなものであった。
 それにしても、餅は餅屋。探し物が見つかって、気分は上々となった。そのまま、配偶者の用事で毛呂山へ。帰りには、流鏑馬で有名な、源義家ゆかりの出雲伊波比神社にお詣りした。

 6月16日(土)

 いつの間にか6月も半ばを過ぎて、昨日は梅雨入りもしたらしく、季節は加速度をつけて進んで行く。復氷という言葉がかねて気に掛かっているが、イメージはなかなか展いていかない。
 氷のかたまりを糸状のもので切断していくと、いったんは融けながらも、まわりの氷に冷やされてふたたび凍り始める、その現象を復氷というのだそうで、学校の理科実験では、あるいは定番ものかも知れない。真夏日の続くこの時期に、合うか合わないかは知らねど、言葉の響きに惚れたのである。

 6月17日(日)

 届ける物があって、車で吉祥寺へ。予定よりも早く駅前についてほっとしたのも束の間、右折する交叉点をひとつ間違えたばかりに、同じ道を何度も何度も、ぐるぐる回る仕儀となった。やむなくデパートの駐車場に車を入れ、息子と対面したときにはもう日が暮れていた。人と車の洪水のなかで、1時間以上迷子状態だったことになる。こういうときの“時の進み”はとても早いと、嘆息。負け惜しみではなく、徒労感はなかった。ついに根っからの山里の人になったか、と云々。

 6月19日(火)

 早朝、枕元の電話(いわゆる家電) が鳴って、飛び起きた。義妹からで、すぐに配偶者と代わったが、あとで聞くところによれば、ゆうべ娘と大喧嘩をして、大声で叫んだ記憶はあるが何を言ったかは覚えていない、それに二日酔いが加わり、目覚め芳しからず、したがって、行くのを明日に延期する、という。地上の葉が枯れかけてきたジャガイモ掘りは、かくて順延、となった。
 先に、2畝を試し掘りしたところ、約32キロのイモが穫れた。師匠のTさんもびっくりするほどの大収穫だ。あと8畝残っているから、この計算でいくと120キロ以上が期待できる。半端な量ではないなぁ、といまからワクワクである。スーパーに寄ったついでに、手頃な段ボール箱をいくつかもらってきた。準備は、ととのった。ただし、所用があって、一緒に掘ることはできないのが心残りである。

 昼過ぎのこと、勤め先の駐車場に車を入れていると、携帯電話が鳴って、財布をなくした、お金を振り込んで、と池袋にいる娘が言うのであった。いや、駄目だ、財布にカードが入っていたから、おろせないや、と前言を翻すから、志木の改札口で渡そう、と提案すると、納得したようだった。こちらも仕事があるので、早く来いと言えば、一応交番に届けてからにする、と悠長なもの。どこに置き忘れたか分からない、というのも、相当間抜けなことであるが、責め立てる気にもならない。そんな一時的な健忘症は、われにもある。
 
  以上電話噺二題。共通項は、娘。悪いのは、親、か?

 6月24日(日)

 朝から、雨。こういう日は、時間が経てばいよいよ億劫になるにちがいないと経験上思い、近くのショッピングセンター内の散髪屋へ。七人待ちの混み様だったが、ここでひるむとまた機を逸してしまうと観念した。約一時間待って、伸びましたね、どうしますか、と聞かれたので「ばっさりと」と依頼する。切ってもらっている間にも、首のまわりがどんどん涼しくなっていく。仕事中は無口だった若い理容師が、「かなり切りましたよ。軽くなったでしょ? これで8月中はバッチリです」などと笑いながら言う。2ヵ月とちょっとか、いけるかも。苦笑しつつも、頷かざるをえなかった。

 6月30日(土)

 真夜中に車を走らせていると正面に満月。雨もすでに上がって、蒸し暑さも消えている。この日一日、仕事はスムーズにこなせたが、身辺の心配事・悩みは尽きず、さりとて蒼い月に祈る気になれず、ただただ嘆息のうちに眺め遣るのみ。その中には、「きれいだなぁ」という一片の感情がある。名古屋特集のラジオ放送が流れている途中に、同地を震源とする地震速報あり。しばらく、互いに連絡が途絶えている畏友のOは、元気か、とふと考える。
 
 


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